ボーナストラックex

描かれた男の花
石川z: ブリッジしたら背中の筋肉、即ち背筋をパキャンいわした
石川z: なぜ深夜三時に大の男がブリッジしなければならないか
石川z: その理由を語るには男について2、3物語らねばならない
石川z: 男はあぐねていた。男があぐねるには簡単だ。
石川z: 金と女を与えず時間を与えればいい。そうすれば男は
石川z: 勝手に世界一の詩人となる。世界一はもちろんタイであり、
石川z: 銀メダリストこそが、男の欲するところを持つものであったり
石川z: 詩文を殊更に必要としない、即ち詩文と自然な関係を持てるものだが
石川z: それを男に通告するのは酷だろう。何しろ男は詩人なのだ。
石川z: 今現在において。
石川z: そして男は煙草を吸う。詩人になった男は夜を徹し、
石川z: 悩みでも考えでもない、ある想念、それは過去の映像であったりする、
石川z: 概ね過去に関係した女との情交や、布団の湿気の香りなど、
石川z: 自分をどうにかして慰め、あるいは崖の上で後ろから蹴りを入れる、
石川z: そういった何かしらを燻し、吸い込む様子は走馬灯のそれに酷似する、
石川z: 即ち現在のあぐねから、何とか脱出する方法、あるいは耽溺する方法、
石川z: を見つけ出し、夜明けの珈琲と煙草が醸すものを、なんとか男の
石川z: そう男の持つ美意識に合致するものとしようとするのだが、
石川z: そういう時に限って、眠気は煙草の灰を膝に落とし、
石川z: ああこれ洗わなきゃとれないけど、洗ったら着るものなくなるんだよな
石川z: そうすると叩いてとれないものを布団に持ち込むことになるけれど、
石川z: 俺は喫煙者だけれども煙草の成分とかって好きじゃないんだよな
石川z: 体にとっても悪い気がして、煙草一本で致死量とか言うけれど
石川z: あれは本当だと思うんだよ、煙草を消した水を見てご覧よ
石川z: あの黒さは学校ではお眼にかかれない、つまりは文部省非推薦の
石川z: そういった黒社会とかの黒と同じ意味の黒だと思うんだよ
石川z: だから、俺は、この寝間着を、布団の中に持ち込みたくない
石川z: そうして男は下半身を涼しげにして布団の中に入ることになる
石川z: それは男が拘りつづけた、一晩ではあるが、拘りつづけた
石川z: 美学に果たして適合するものであろうか、
石川z: 男は夢を見た。女の夢だ。過去の女が囁く。
石川z: そして目が覚める。何を囁かれたかは覚えていない。
石川z: 暗がりのバーで、バーなど普段利用しないのだが、バーで、
石川z: 女がワンピースを着て、露出度の高い、黒のワンピース
石川z: 貧困な想像力で夜が似合う女を検索したら画像の一致はその一件だったらしい
石川z: で、男に囁く、しなだれかかるように、睦言だ、悪い雰囲気ではない、
石川z: 闇はオレンジ色を湛え、夜の音が静かに、同じ音を、耳鳴りのように
石川z: きーん、と響かせる、その先には、暖かいベッドが
石川z: そこで、目が覚めた。男は何も感じるところはなかったが
石川z: ただ、夢の中の女は美しく見えた。二人で仏像を見に行った
石川z: あの雨の中、バス待ち合い室の広さ、木造の椅子の老朽化
石川z: 弥勒菩薩の黒い光、確かな神々しさ、
石川z: あの、雨の音が、
石川z: きっとまだ俺の中で続いている。
石川z: 物語る一つは、概してそんなところだ。
石川z: つづく