クシャマインについての二三の事柄

そこにそれはあった。橋を渡ると木造の家屋があり、そこにクシャマインが詰め込まれていた。番をしているフレッジと目があった。「ここを出るのかい?」「ああ、ここはもう僕を必要としていないからね」フレッジはクシャマインの守りをして随分経つが、まだ若い青年で、外に出るには問題のない体と知性を備えていた。「どこへ行くんだい?」「ここが見えないところさ」フレッジの顔をまじまじと見た。褐色の肌の頬に赤らみが見え、それを僕は美しいと思った。「君ならどこでもやっていけるさ」「ありがとう」「じゃあ、さようなら」
一匹の獣がいた。家屋の中に進入しては子どもや大人分けず食べ、毛並みが薄い白銀に輝き、速く走る獣だった。
かつてフレッジはその獣を一人で退治したことがあった。その時、皆はフレッジを村の英雄のようにあらゆる酒で祝福し、褒め称えた。それから獣は一度も現れなかった。フレッジは少年の末から青年の始まりに移り、皆は獣のことと、フレッジのための晩餐を、すっかり忘れてしまった。灯りの中で白桃の酒を飲むフレッジは、やはり褐色の肌をしていたが、そこに若い輝きを見せていた。頬が赤く染まっていたか、炎のオレンジ色が彼を照らしていたので見えなかった。
フレッジが村を出る。その首には、獣の毛でこしらえた、鉄の輪に白銀の糸がふわふわと並ぶ、きれいな首飾りが掛かっていた。
フレッジが村を出た。誰かがクシャマインの守りをするのだろうが、それはまだ何も決まっていないことだった。
僕は草が生え揃う中、一部だけまばらになった箇所を見た。そこは獣が襲った家屋があった場所で、家屋が薪と荼毘の材料になったあとは、誰も手を付けていない場所だった。それが村の人々が思うかなしみの表現であり、そこには草があまり生えなくなった。
墓は村の外れにあった。そこに、フレッジからもらった、獣の毛の一本を、そっと添えた。
辺りは青い空が布の色を濃くしていき、覆われた僕たちはやがて家に帰る時間になっていて、墓の周りにも、遠くの畑にも、誰もいなかった。ここからクシャマインの小屋は見えなかった。
白銀が夜に差し掛かるまでの、恐らく最後の光に触れ、白く光った。
フレッジからこの光は見えないだろうと思った。僕も、家に帰らなければ。