クシャマインについての二三の事柄2

すっかり陽が落ちたころ、クズミがランタンを持ってクシャマインの近くに来た。フレッジがいなくなったことを確認したのだ。クズミはまだ少女だったが、フレッジの祝いに参加した一人であり、フレッジのことを好いていた。フレッジの頬に赤みが照り始めたころ、彼女はフレッジに問いかけた。「ねえフレッジ、わたしってきれいになったかしら」「そうだね、きれいになった」それ以来、クズミはフレッジにあまり近寄らなくなった。彼の首に掛かる白銀の光が何より美しく、自分の着ている薄布のスカートの裾に出来た土の染みが、やけに大きく感じられた。それからクズミは髪飾りをつけ、服を少し上等な、それでも村にある限りのものだが、花をあしらったものに替え、靴は、幸い弟たちがたくさん働いてくれていたので、農作業に適さない、踵を低く持ち上げる皮の、白い兎の毛がついたものにした。それから彼女は少し酒を飲み、料理を覚え、よく家屋の跡を見に行った。青がおりて夜になると、彼女は時折ランタンを持って外に出かけ、近くの小川に掛かる橋に座り、星を見た。その光が彼女におりてくるだろう、いつかおりてくるのだ、そう思って、村の男に求愛をされた頃、フレッジは村を出た。
彼女は思った。白銀に自らがなるより、フレッジに求められ白銀を手にする方が、よほど近道だったのだと。そして彼女は、白銀よりもフレッジを求めていたことを知り、ランタンの灯を消し、クシャマインの小屋にもたれ掛かって泣いた。翌日、彼女はフレッジのことを男に告げ、あのようになって欲しい、と言った。男はフレッジの顔をよく覚えておらず、どうしたらいいか問うた。クズミは毎日のようにクシャマインの小屋にもたれ掛かって泣いた。まるでそこを守るように。クズミは幾人もの男に求愛されては、同じことを告げ、同じように問われることを、しばらく繰り返した。それは星が何度も出ては入り出ては入りする間で、クズミはやがて大人になった。白銀の光が胸にあるうち、クズミはずっとランタンの灯を消し続けるのだろう。クシャマインの小屋の周囲に彼女が柵を作ったのは、その頃だった。