スーパーリラクゼーション・トゥ「夢十夜」

こんな夢を見た。
我が家で宴の支度をしていた。皆が食べ物を卓に並べていた。中学生時分の友だった。父と母が勤めで遠方に向かった。カメラを渡した。最も新しい小さなカメラは壊れており、手のひら三つ分ほどの大きめのカメラを渡した。
宴が始まった。まだ何も食べぬうち、自分の女は何をしているだろか、と話す者がいた。妬んだ私はその場を出、我が家の前の坂を裸で滑走し、爪で速度を上げ、腰で方向づけを為し、ドリフト走行でメンズDVDショップを目指した。
このような暴挙に出れば、皆は後に面白がってくれるだろう、そう思っていた。国道沿いにある舗装された歩行者用道路を滑走するが、うつ伏せになった胸や腹や脚は痛まず、速度だけが上がった。裸でこのような速度を出し滑る者はいまい、そう思いつつ婦女子の好奇の目など認めるに、常ならぬ愉快を感じていた。
ドリフト走行で最後のカーブを曲がり、肘で急ブレーキを掛けるも、左側に見えるはずの店はなく、数メートル過ぎたところから、微速にてあるはずの場所に近付いて行った。
取り壊された建物とその跡に生えた草が見え、不思議に残ったシャッターに、メンズDVDショップはここここに移転します、と書かれた貼り紙があった。
この国道をもうしばらく走れば、もう一件のメンズDVDショップがあった。
しかし、そこまで走るのは億劫であり、何より落胆が大きかった。
もう宴も始まってしばらく経つ、早く帰らねば、と思い帰路に就いた。
徐行にて歩道を滑走していると、ラブホテルがあり、そこを一角とする十字路の斜向かいに、佇まいの美しい、若者で賑わうショッピングモールが見えた。こんなところにこんなものがあったのか、と興味をそそられ、ゆっくりと道路を横断し、ショッピングモールの広場を滑った。
活気があり、豪奢である、ここは良い、と満足し、再び横断歩道を渡り、ラブホテルの駐車場に差し掛かったとき、大きな地震が起こった。
人々は叫び戦き慌てふためき、向かいの巨大スーパーの客も、ガソリンスタンドの車たちも、尋常ならぬ恐怖に我を忘れていた。地震が止んだ。私は早く帰るべく、ラブホテルの脇から通る坂道を行き、田んぼの中に家々がまばらに建つ風景を楽しんでいた。
大きな叫び声があった。もう地震は止んだのに、しつこい恐怖である、と思い振り返るに、先ほどよりますます人々が恐慌の中にある、どうしたものだと前を向き目線を上げると、山が噴火していた。
火口からは巨大な、小さいもので五十センチメートル、大きなもので五メートルはある、恐るべき岩石が雨粒の数をもって次々こちらに飛来してきていた。それらは家に当たり道に当たり、人や物やを問わず鏖殺した。私は近くにあった人家の陰に隠れた。人家は巨石に耐え、軒すら耐え、耐震性とは頑強であることを言うのか、と私を感嘆たらしめた。
一つの巨石が私目掛けて飛来した。それはシューティングゲームの弾のようであり、私は横に素早く滑りそれをかわした。いくつか同様にかわし、火山弾恐るに足らず、と、私はいささか機嫌を良くした。しかしその威力と、眼前に広がる岩の雨と赤黒く光る山の頂は光景として余りに荘厳で威風に溢れ、私はそれを写メで記録した。家に帰ったら皆に見せてやろう、きっと何よりの土産になるに違いない、身を隠しながら写メの映りを確認しつつ、私は思った。
雨が止むように、空が晴れた。山は鎮まり、私は街の様子を見ようと、民家の軒下からラブホテルの駐車場へ滑走した。
三たび叫び声が上がった。今度は何事かとショッピングモールの空を見るや、白い雲が浮かぶ虚空から、巨石が幕が如く降り注がれていた。
その一つが私を狙った。
私は避けようとしたが、雲からの巨石は速く、かわしきれないと覚悟を決めた。
次の瞬間、寝汗と共に私は起きた。恐怖の記憶を胸に階下に赴くと、宴は既に終わっており、やっと起きたか、と嘲笑の声が聞こえた。笑いが起き、しかし未だ恐怖に震えていると、数人が帰ると言い出した。
そうか、気をつけてな、と残る皆で送り出すや、隣家であろう、その辺りから、女と其奴らの声がした。声は車が発進するや消えた。
残った皆で其奴らを罵倒した後、玄関に布団を敷き、眠ることになった。
私は眠れなかった。巻誠一郎がこちらを見ていた。二三話をすると、巻は寝た。
その後、友人のHと、兄と慕うSさんと共に、ここをこのように滑っていたのだ、と説明しつつ歓談しつつ、一件の蕎麦屋の前に着いた。
我々はSさんに蕎麦をねだり、Sさんは渋々ながら承諾してくれた。
我々はSさんに色んなことを訊ねた。その中で、既婚者であるSさんは女性に興味をどのように持っているのか、というものがあった。
Sさんは、ええか、と関西弁を使い始め、給仕の美しい少女を呼び、空中に点字を描き始めた。
それは見事な凸模様であり、その下には試験管の中から太いタンポンを抜き出したような絵があり、その先端からは英語でインサートと書かれた吹き出しが飛び浮かぶのだが、達筆に過ぎて判読が難しかった。
二三ハートマークをあしらったのち、少女に向き直り、Sさんは、アイラビュー、と言った。これが大人の男だ、と、我々は大いに感嘆した。