mixi転載 東城が告白した日の日記タイトル真中草稿

 あなたがページを繰るたびに風が来て、夏の香りが混ぜられる。パラパラマンガでは、簡略化された人の絵が、ただひたすら走っていて、あなたが指を止めると走り終えた。
 文字がわたしを愛してくれて、わたしも文字をとても愛した。教室のカーテンが揺らめいて、わたしのノートだけを散らかしても、そこに文字があったなら、わたしは風も愛せていた。
 遠くを見ようと思っても、わたしにはそれが叶わない。文字はどこかで聞いた風景を組み合わせて、素敵な風景を手渡してくれるけれど、それは誕生日の夜に時間指定で花束を注文するような、華やかだけれども、いろいろを削られる、たとえばお金や心、ことだなあと思った。教室の風は、眼鏡でまもられた目には少し強すぎて、でも屋上の風景は。
 屋上の風景は。
 そこには街が広がっていた。わたしの文字を、少なからずくれた街。それを眼鏡ごしに見るのは少しかなしいことなのかも知れないけれど、ベランダに掛かる洗濯物、引っ越していく人々、文字の中の街、を眺めることは、この街がわたしを含めてくれているようで、とても好ましかった。
 風は教室のようにわたしのノートを流さず、新しい文字が運ばれてくる。きっとこれでいいのだと、街を出る人を見ながら思っていた。
 あなたはわたしを見つけてくれた。街ではなく、文字でもなく、あなたはわたしを読んでくれた。あなたをもっと近くで読みたくて、でもわたしには遠くが見えなくて、わたしは眼鏡を外してみた。コンタクトに替えて見直した風景は、目に痛いこともあったけれど、あなたがわたしを、そして、出来たらわたしもあなたを、より近くで読めたらと思って、ずっとわたしは目に痛いコンタクトを付けてきた。
 あなたがページを繰るたびに風が来て、夏の香りが混ぜられた。パラパラマンガでは、簡略化された人の絵が、ただひたすら走っていて、あなたが指を止めると走り終えた。
 文字がわたしを愛してくれて、わたしも文字をとても愛した。教室のカーテンが揺らめいて、わたしのノートだけを散らかしても、そこに文字があったなら、わたしは風も愛せていた。
 わたしがページを繰ったとき、あなたのマンガは走り出していた。二人のノートはいっしょに風を出して、真ん中でふっと消えていった。わたしは風すら好きだった。